昨年末、日産自動車と三菱自動車の元会長であるカルロス・ゴーン氏が、国外逃亡するという事件が大きな話題となりました。
カルロス・ゴーンは保釈中の身であり、海外渡航が禁止されているにも関わらず逃亡に踏み切ったわけですが、そもそもなぜ逃亡できたのでしょうか?
今回は、事件の一連の流れと併せて解説します。
カルロス・ゴーン逃亡までの経緯について
カルロス・ゴーンが逮捕され、保釈中にも関わらず、海外へ逃亡したということは、ご存知の方も多いかと思います。
ただ、カルロス・ゴーンがこれまでに4度も逮捕されているということについては、知らない方も多いのではないでしょうか?
カルロス・ゴーン1度目の逮捕は、2018年11月19日であり、逮捕の原因は、“有価証券報告書の虚偽記載”でした。
わかりやすく言うと、上場企業が必ず作成し、公開しなければいけない書類の内容を偽って提出したのです。
具体的には、実際の役員報酬金額がおよそ80億円だったにも関わらず、およそ40億円と記載して提出し、金融商品取引法違反容疑で逮捕されています。
また、2度目の逮捕は、そのわずか1ヶ月後の2018年12月21日であり、今度は別の年の有価証券報告書において、同じように虚偽の報告をしたとされ、逮捕に至っています。
そして、その約1年後には、これまでとは全く異なる“会社法違反”の容疑で3度目の逮捕をされています。
これは、カルロス・ゴーンが、私的な損失を日産自動車に押し付けたという容疑です。
4度目の逮捕も、内容は少し異なるものの、同じく会社法違反の容疑での逮捕です。
これが、2019年4月4日の話です。
カルロス・ゴーンは、これまで何度も逮捕され、何度も保釈を繰り返しており、冒頭で触れたように、4度目の逮捕後の保釈には、海外渡航禁止という条件が付いていました。
それにも関わらず、2019年12月31日(日本時間)、プライベートジェットを使い、トルコのイスタンブールを経由して、自らが国籍を持つレバノンへの逃亡を実行しています。
カルロス・ゴーンが逃亡した理由は?
カルロス・ゴーンが逃亡した理由は、日本の司法制度に対抗するためだとされています。
先ほども解説したように、カルロス・ゴーンは日本で計4回も逮捕されています。
また、いずれの場合も自供を強要され、保釈も認められませんでした。
途中、弁護士が”無罪請負人“として有名な弘中惇一郎氏に代わったことで、何とか保釈されましたが、それでも行動には制約が多く、実質”軟禁状態“にありました。
カルロス・ゴーンは、このような日本の刑事司法のやり方に強い疑問、不満を抱いており、これが逃亡に繋がったと言われています。
また、逃亡したもう1つの理由としては、自身が潔白であることを示したかったということも挙げられます。
カルロス・ゴーンは、日本にいる以上、妻やその他の関係者などと十分な意思疎通を取ることは難しく、このままでは無罪を勝ち取ることができないと感じていたようです。
そこで、自身が国籍を持つレバノンに渡り、そこで裁判を受けることで、潔白を証明し、無罪を勝ち取ろうと考えたのです。
カルロス・ゴーンの逃亡方法について
逃亡後、レバノンで行われた記者会見において、カルロス・ゴーンは「逃亡方法について話すつもりはない」と口を閉ざしていました。
そのため、真実は定かではありませんが、各メディアが有力な逃亡方法について報じています。
それが、“楽器ケースに隠れて逃亡する”というものです。
カルロス・ゴーンは、出国の際、大型の楽器ケースに身を隠したとされています。
また、人が入れるほどの大きな楽器ケースが、出国の際の検査に引っかからなかった理由は2つあります。
1つは、サイズが大きすぎて、X線検査機に入らなかったことです。
そしてもう1つは、手持ちの金属探知機で検査したものの、反応がなかったことです。
これは、渡航時における、荷物検査のシステムを知り尽くした人物が考案した方法である可能性が高いとされています。
カルロス・ゴーンが逃亡できた理由は?
カルロス・ゴーンが海外に逃亡できた理由はいくつかあります。
1つ1つ見ていきましょう。
① 保釈金が少なかったため
保釈金は、本来被告人が失うととても痛い金額になるケースが多いですが、カルロス・ゴーンの保釈金は15億円程度でした。
15億円というと、一般の方には想像もできないほどの大金ですが、カルロス・ゴーンにとっての15億円は、痛くも痒くもない金額だと言われています。
実際、カルロス・ゴーンは、レバノンへの逃亡に約22億円以上を費やしたとされており、保釈金の設定がもう少し厳しければ、逃亡を防げたとの声も多く出ています。
② 保釈の条件が緩かったため
カルロス・ゴーンの保釈には、海外渡航禁止の条件が付いていましたが、保釈中の逃亡に対する罰則自体はほとんどありませんでした。
つまり、保釈金こそ没収されるものの、海外への逃亡自体が罪になるわけではないのです。
それが理由で、過去にも逃亡を企てる犯罪者は多くいたため、この点に関しては、今後改善しなければいけないでしょう。
③ 日本政府が逃亡を容認した可能性があるため
日本政府が容認したため、カルロス・ゴーンは逃亡できたという説もあります。
これは、日本政府がカルロス・ゴーンを起訴したものの、無罪になる可能性が高いと感じ、それなら逃亡されたほうが良いと考え、容認したという説です。
つまり、“わざと逃がした”というわけですね。
また、日本政府とフランス政府、またはレバノン政府との間で何らかの取引があり、カルロス・ゴーンが逃亡しやすい環境を作ったという説もあります。
いずれにせよ、日本政府の大きな失態であることは間違いありません。
④ 外務省、法務省(入管)の手続きなどが甘かったため
外務省や法務省(入管)の手続きなどが甘かったことも、カルロス・ゴーン逃亡の大きな手助けになったとされています。
今後日本はどう対応していくべきなのか?
カルロス・ゴーンにどんな思惑があったにしろ、“海外渡航禁止”というルールが破られたことは事実です。
また、日本の刑事司法に問題があったとしても、今回のケースでは、日本でカルロス・ゴーンの裁判を行うべきだと言えるでしょう。
ただ、それには1つ問題があります。
日本でカルロス・ゴーンの裁判を行うには、カルロス・ゴーン本人を日本に帰国させる必要がありますよね。
しかし、日本が“犯罪人引き渡し条約”を結んでいるのは、アメリカと韓国の2ヶ国のみであり、レバノンは締結国ではありません。
ちなみに、犯罪人引き渡し条約とは、国外に逃亡した犯罪者を、逃亡先の国家から引き渡してもらう、または自国に逃亡してきた犯罪者を、犯罪が行われた国家に引き渡すことを約束する国際条例を言います。
さらに、レバノンには、自国民を他の国に引き渡すことを禁じた国内法があり、現時点でカルロス・ゴーンを帰国させるのは、とても難しい状況になっています。
そのため、ICPO(国際刑事警察機構)の協力要請を強化したり、レバノンの司法機関が関心を持つ資料をレバノンに提供したりといった対策が必要になるでしょう。
また、日本政府がカルロス・ゴーン逃亡という事実に責任を感じているのであれば、検察が地の果てまでカルロス・ゴーンを追いかけるという固い決意をする必要があると言えます。
まとめ
ここまで、カルロス・ゴーン逃亡事件について詳しく解説してきましたが、いかがだったでしょうか?
カルロス・ゴーンが行ったとされる有価証券報告書の虚偽記載や、会社法違反の真意については、正直なところ100%明確ではありません。
ただ、今回の逃亡に関して、日本政府に大きな責任があることは事実であり、事件解決に向けて迅速に行動するのも至上命令だと言えます。