日本では、喫煙者の数が年々減少しています。
これは、タバコの健康被害が唱えられ続けていること、タバコに関する規制が厳しくなっていることなどが影響していると考えられます。
一方、お酒に関しては、著しく規制が厳しくなっているわけではありません。
果たして、この違いは一体何なのでしょうか?
詳しく解説します。
タバコとお酒における“表示”の違いついて
喫煙者の方ならお分かりかと思いますが、タバコの箱には、さまざまな”警告表示“が記載されています。
例えば、「喫煙は肺がんの原因の1つとなります」「喫煙は心筋梗塞の危険性を高めます」といったような記載ですね。
これは、言ってしまえば「タバコを吸っても良いことはありません」ということを伝えているようなものです。
では、なぜ警告を表示しているのかというと、これが財務省によって定められたルールであるためです。
言い換えれば、「タバコの箱には警告表示を記載しなければいけない」という“規制”があるためですね。
一方で、お酒の缶や瓶、パックなどには、タバコのような警告表示が一切記載されていません。
お酒を飲みすぎると、急性アルコール中毒になったり、肝機能が弱まって肝臓病になる可能性が高くなったりと、タバコと似たような健康被害が出るにも関わらず、「飲酒は肝臓病の危険性を高めます」というような文言は書かれていないのです。
この差を考えると、やはりタバコよりもお酒の方が規制は緩いと言わざるを得ません。
タバコに関する規制について
タバコの箱に警告表示を記載しないといけないことは、1つの規制だという風に解説しました。
では、タバコに関する規制には、他にどんなものがあるのでしょうか?
代表的なタバコ関連の規制としては、やはり近年話題になることも多い、“改正健康増進法”による規制でしょう。
これは、2020年4月から導入されるものであり、屋内での喫煙は原則、喫煙専用室または加熱式タバコ専用喫煙室に限られるというものです。
そのため、定められた場所以外での喫煙は、当然法律違反になります。
喫煙目的室の標識が掲げられているバーやスナックなどでは、店内のすべてまたは一部で喫煙をすることができますが、この法律の施行によってタバコの規制がより厳しくなることは、火を見るよりも明らかです。
お酒に関する規制について
一方で、お酒に関する規制には、一体どのようなものがあるのでしょうか?
結論から言うと、先ほど解説した改正健康増進法による規制のように、飲酒という行為に対する直接的な規制は、基本的にはありません。
例えば、お酒を持ち帰りで販売する場合は、その店舗に“酒類販売業免許”の取得義務が発生しますが、これは飲酒に対する規制ではなく、販売に対する規制です。
また、“路上喫煙禁止条例”のように、特定の場所で飲酒をしてはいけないというような条例・法律に関しても、基本的には存在しません。
ハロウィンや年末年始の時期、混乱を招くことを懸念して、東京都渋谷区では“路上飲酒禁止条例”が成立しましたが、これも飲酒そのものに対する規制とは言えないでしょう。
タバコは周囲の人にも害を与える
では、いよいよ本題に貼ります。
タバコの規制がこれほどまでに厳しくなっているにも関わらず、なぜお酒の規制は緩いのでしょうか?
その理由の1つとして、まず“周囲の人への影響”が挙げられます。
お酒を飲みすぎると、中毒になったり身体に異変が起きたりすることは事実ですが、それはあくまで飲酒している本人のみに考えられるリスクです。
お酒が持っている成分などで、周りの人に直接害を与えることはありません。
一方、タバコを吸う場合、喫煙者本人だけでなく、その周りにいる方も“副流煙”という形で害を与えてしまうことになります。
つまり、タバコを吸うことは、喫煙者だけでなく非喫煙者にまでも同様の健康被害を与える可能性があるため、強く規制されているというわけです。
タバコは受容性が低い
タバコの規制が厳しく、お酒の規制が緩い理由には、タバコの方が”受容性“が低いということも挙げられます。
受容性とは、そのことを受け入れやすいかどうかを指す言葉であり、やはり一般的に、飲酒は許せても喫煙は許せないという傾向が強いのです。
これは、タバコを吸う方よりもお酒を飲む方の方が、絶対数が圧倒的に多いことが理由です。
考えてみてください。
例えば、電車やバスなどの交通機関において、飲酒をしている方がいるとします。
よく見かけるという方も多いでしょう。
ただ、このとき、多くの方が利用する交通機関で飲酒しているからといって、声を上げて注意するという方は、果たしてどれくらいいるでしょうか?
気にはなるものの、そのまま見て見ぬふりをするという方がほとんどなのではないかと思います。
一方、同じように交通機関で喫煙している方がいた場合は、注意するという方がほとんどでしょう。
もちろん、交通機関での飲酒は禁止されておらず、喫煙は禁止されているというところに違いはありますが、これはタバコとお酒の受容性を表す、とてもわかりやすい例だと言えます。
被害規模や範囲が大きいのはお酒
先ほど、タバコは周りの人に害を与えるもので、お酒はそうでないものだと解説しましたね。
ただ、これはあくまで、成分そのもので害を与えないというだけであり、迷惑を掛けたり、事故を起こしたりすることは、お酒を飲みすぎた方の方が多いでしょう。
例えば、お酒をたくさん飲むと酔っ払いますし、ましてや酩酊状態になってしまうと、多くの方に迷惑を掛けることになります。
また、飲酒運転をすることで、まったく関係のない方の命を奪ってしまうことも考えられます。
もっと言えば、家庭において、お酒を飲みすぎた夫が家庭内暴力を働いたりするケースだってあります。
一方、喫煙は成分そのもので害を与えることはあるものの、吸ったことが原因で事故を起こしたり、暴力的になってしまったりすることはありません。
つまり、トータルで見る被害規模や範囲に関しては、喫煙より飲酒の方が圧倒的に大きいのです。
“適度な飲酒は身体に良い”は根拠なし
世間には、“適度な飲酒は身体に良い”というイメージが根付いており、これもお酒の規制が緩い理由の1つだと言えます。
ただ、近年の医学では、この通説に疑問符が付いています。
飲酒の健康への被害を考えるためには、縦軸に健康度(上に行くほど不健康)、横軸に飲酒量(右に行くほど多い)を取ったグラフが必要になります。
また、このようにグラフを取ると、飲酒量ゼロの方より、少し飲酒している方の方が健康という“右肩下がり”のグラフが最初に形成されます。
そして、そのグラフは右に進むにつれて、飲酒量が増えるほど不健康の度合いが高まり、“右肩上がり”になります。
すると、結果的に少しの量、いわゆる適度な飲酒がもっとも健康だというグラフが完成します。
これが、“適度な飲酒は身体に良い”ということの根拠です。
ただ、上記のグラフには1つ欠点があります。
それは、“飲酒量ゼロ”の方に、“お酒が飲めない方、お酒を止められるほど不健康な方”も含まれているということです。
このような方を含んでいる以上、適度な飲酒は身体に良いという根拠がまったくなくなってしまうため、近年は“飲酒しないに越したことはない”という結論が有力となっています。
まとめ
ここまで、タバコと違ってお酒の規制が緩い理由について解説してきましたが、理解していただけたでしょうか?
喫煙と飲酒には、同様に健康被害が生じる可能性があります。
ただ、お酒を嗜む方は喫煙者よりも圧倒的に多いですし、副流煙という形で周囲に与える害も大きいため、これだけ双方の規制状況に差が付いてしまったというわけです。