日本には、政府の借金である国債の“60年償還ルール”というものが存在します。
こちらは、これまで何度も議論されてきたルールであり、数多くの問題点を抱えています。
ここからは、国債60年償還ルールの概要や問題点、当制度に対する政府の見解などについて解説したいと思います。
国債60年償還ルールの概要
国債60年償還ルールは、名前の通り国債を60年かけて返済するというルールです。
例えば、10年で返す国債を600億円発行した場合、10年後に一般会計から国債返済のための特別会計への繰り入れで100億円返済し、残りの500億円は借換債の発行で返済します。
このような手法を繰り返し、60年後に完済するというものです。
戦後の国債発行に際し、建設国債の見合資産(政府が公共事業などを通じて建設した建築物など)の平均的な効用発揮期間が概ね60年であることから、こちらの期間内に現金償還を終了するという考え方で採用されました。
しかし、1985年度には、単に財源不足を補う赤字国債の返済にも適用されるようになり、日本における借金の膨張を招いたとされています。
国債60年償還ルールの問題点
グローバルスタンダードでは、国債の発行による支出は民間の資産の増加となるため、景気過熱の抑制の必要がない限り、発行された国債は事実上永続的に借り換えされていき、歳出に債務償還費は計上されません。
例えば、アメリカやイギリス、フランスやドイツなどの主要国は、単に利払いしか計上していません。
このような形がグローバルスタンダードとなっている理由は、いたってシンプルです。
簡単に言えば、国債を返す必要が特段ないからです。
多くの国は、国債の償還期限が来れば、借換債を発行し、それで済ませています。
言い方は少し悪いかもしれませんが、借金をまた借金で返済するわけです。
国債60年償還ルールは、このようなグローバルスタンダードの観点から見ても、異常な財政運営だと言えます。
日本の財政収支は赤字であり、事実上債務償還費は国債発行で賄われていて機能していないため、問題はないという考え方もありますが、緊縮財政が必要であるという論拠に捻じ曲げられて使われてしまうという大きな問題があります。
実際、国債60年償還ルールに基づき、国の債務を完全に返済するという恒常的な減債の制度を先進国で持っているのは、日本だけです。
国債60年償還ルール廃止でどれくらいの予算が生まれるのか
日本独自のルールである国債60年償還ルールでは、償還するための予算を毎年、国債費という形で歳出の中に積んでいます。
その金額は、年間約16兆円にも上ります。
つまり、こちらのルールが廃止されることになれば、単純に考えて政府は16兆円もの予算を生み出すことができるということです。
こちらも、国債60年返還ルールが抱える大きな問題点と言えます。
また、こちらが実現することになれば、防衛予算などのための増税なども行う必要がなくなる可能性があります。
自民党における国債60年償還ルールの見直し検討
自民党は、借換債を増やし、一般会計からの繰り入れを止めたり、額を減らしたりする案を提案しています。
繰入額を減らした分、防衛費に使える一般会計の金額を増やそうとするのが狙いです。
しかし、こちらの案にも問題点はあります。
確かに、上記の内容を実行すれば、単年度では一般会計からの返済費が少なくなりますが、返済総額が減少するわけではありません。
借換債を余計に発行することにより、将来世代の負担はさらに増えます。
また、赤字を減らそうという力も働きにくくなることが懸念されていて、結果的に財政赤字の拡大につながるリスクもあります。
岸田総理の発言
岸田総理は2023年1月25日、国債60年償還ルールの見直しについて言及しました。
防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党内からは国債60年償還ルールの見直しを求める声が上がっていますが、言葉の内容を見る限り、岸田総理は見直しに積極的ではないことがわかります。
具体的には、「さまざまな意見があることは承知している」と述べた上で、「結果的に国債発行額が増加することや、市場の信認への影響に留意する必要がある」と述べました。
国債60年償還ルールは撤廃すべき
財政には、“ワニの口”という言葉があります。
こちらは、財務省が持ち出した話で、政府の予算である一般会計歳出と税収の差がどんどん拡大し、その差がまるでワニの口のようになっていると表現するものです。
財務省は、こちらのワニの口の開き具合が大きければ大きいほど、「借金漬けで日本の財政状況は深刻だ」と言いたいわけですが、こちらの言い分には違和感があります。
前述の通り、歳出では元本支払い分に相当する債務償還費16兆円が計上されていて、このような状況がまかり通っている以上、国債60年償還ルールはまったく意味をなさないと言えます。
まとめ
ここまで、国債60年償還ルールの問題点や、当制度に対する政府の見解、動きなどについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
国債60年償還ルールを廃止にすれば、防衛増税も不要な上に、異次元の少子化対策や減税も夢ではありません。
しかし、現在の政府の動きを見る限り、完全に廃止されるまでには、まだまだ時間がかかる可能性が高いです。