中央ヨーロッパ時間の2020年2月1月午前0時、ついにイギリスがEUを離脱しました。
3度の延期を経て、とうとう実現することになった“ブレグジット”ですが、イギリスのEU離脱は、日本やその他の世界各国にどのような影響を与えるのでしょうか?
ここからは、イギリスのEU離脱の概要と併せて解説したいと思います。
イギリスのEU離脱について
イギリスは、2016年6月の国民投票の結果、投票者の51.9%が離脱を選択したことにより、EUを離脱することになりました。
当初は2019年3月の離脱を予定していましたが、その後混迷を極め、結局正式に離脱したのは2020年2月1日午前0時(中央ヨーロッパ時間)となっています。
離脱当日には、ロンドン・ダウニング街の首相官邸の壁に投影されていたカウントダウンの時計が“0:00”を表示し、ビックベンの鐘の映像とともに、録音された鐘の音が鳴らされました。
さらに、ブリュッセルのEU省庁から、イギリス国旗“ユニオンジャック”が取り除かれたり、EU離脱を記念する50ペンス硬貨の流通が始まったりと、この日はEU離脱を象徴するさまざまな出来事が起こっています。
また、イギリスは2月1日をもってEUを離脱しましたが、正確には“移行期”に入ったことになるため、直ちに変わることはあまりありません。
例えば、移行期間中はほとんどのEU法を遵守し、予算も拠出するなど、離脱前とほぼ同じ関係をEUと保ちます。
EU域内の自由移動も、2020年12月末までは認められています。
ちなみに、イギリスのEU離脱問題は、世界各国で“ブレグジット”と呼ばれており、これはBritish(英国)とExit(退出)を意味する混成語です。
なぜイギリスはEUを離脱したのか?
では、イギリスはなぜEUを離脱したのでしょうか?
その大きな理由は、イギリスがEUのルールに縛られたくない国、自国のルールは自国で決めたい国であったからです。
EUは28の加盟国で構成されており、各国で話し合いをして定めたルールに関しては必ず守らなければいけませんが、イギリスには「思い通りにできない」という不満が根強くありました。
特に問題になっていたのは、“移民問題”です。
イギリスは、EU加盟国の中では比較的好景気であり、仕事も多くあるという理由で、不景気の東ヨーロッパなどから多くの移民が入ってきました。
ただ、移民が増えるということは、人口が増えるということであり、イギリスはそれに対応するために学校や病院などを増やさなければいけなくなります。
つまり、移民が増えることで、多くの資金が必要になるということですね。
しかし、EU加盟国の中では、人の移動は基本的に自由です。
そのため、イギリスがこれ以上移民を受け入れたくなくとも、制限することができないのです。
もっと言えば、イギリスが移民を制限する法律を作ったとしても、それがEUのルールに合わない場合、効力を発揮しなくなります。
そして、移民問題だけでなく、イギリスにはもう1つ大きな問題がありました。
それが“貿易問題”です。
EUの内部にいると、EU外部の国と貿易交渉をする際、国単独では交渉できません。
あくまで、EUとして交渉することになります。
イギリスは、当然今までこのルールを守ってきましたが、やはりイギリスにも得意な産業、守りたい産業があります。
28もの加盟国があると、すべての国の利害を調整し、合意を作っていくことは大変ですし、時間もかかります。
こうなってしまった以上、イギリスにはEUを離脱し、自分たちでルールを決められる権限を取り戻すという選択肢しかなかったのです。
日本への影響について
では、イギリスがEUを離脱したことで、日本にはどのような影響が及ぶのでしょうか?
もっとも大きな影響として挙げられるのは、やはり“EUの玄関口”という機能が崩れることでしょう。
イギリスに拠点を持つ日本企業は、およそ1,000社あると言われていますが、中でも日本を代表する大企業である“ホンダ”は、イギリスでの完成車生産を2021年中に中止すると宣言しています。
何十年も生産拠点を持ったにも関わらず、まさか日本の企業がいなくなるとは誰も思わなかったでしょう。
同じく日本を代表する大企業である“パナソニック”も、ヨーロッパの統括拠点をイギリスからオランダに移しています。
また、今後関税の追加コストや通関手続きが発生する可能性もあるため、先を見越して生産拠点を移動させ始めている日本企業が少しずつ出てきています。
世界への影響について
ブレグジット自体は、国民投票からすでに3年半が経過しているため、世界各国も相応の備えをしてきてきます。
そのため、イギリスのEU離脱による世界経済への影響は、長期的には少ないと考えられます。
また、イギリスは決して経済大国ではないということも、世界経済への影響が少ない理由の1つでしょう。
GDPは世界全体の3%で、ランキングでは上位に位置する国ではあるものの、やはりアメリカや中国、ドイツの影響力と比較すると、単体の力はそれほど大きくありません。
もっと言えば、イギリスがEUを離脱したからといって、アメリカや中国、その他EU加盟国同士の通常の貿易、経済活動への直接的な影響はないと言っても過言ではありません。
唯一大きな影響があるとすれば、世界経済の短期的な乱高下でしょう。
かつて、ギリシャの財政危機に端を発した信用不安問題は、急激な円高をもたらすなど、世界の市場を混乱させることになったため、この問題に関してはしばらく目が離せない状況が続きそうです。
イギリス自体への影響について
イギリスはEUを離脱することで、自国のルールを自国で決められるようになりましたが、もちろん離脱に伴うデメリットもあります。
EU離脱派と残留派のしこりは現在も大きく、離脱に反対するスコットランドの独立の動きは再燃しかねません。
また、経済的にも、輸出入の半数をドイツやフランスなどEU諸国が占めているだけに、関税が復活すれば大きな打撃となります。
ブレグジット後のEU内のパワーバランスは?
イギリスがEUを離脱したことによって、EU内部のパワーバランスには変化が起こります。
特に大きな焦点となるのは、やはりドイツの影響力増大でしょう。
従来のEUでは、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアが主要大国として一定の均衡を維持してきました。
ただ、そこから一国が離脱する以上、ドイツにその意図がなかったとしても、影響力が増大することは避けられません。
もちろん、これが直線的に進むかどうかは不透明です。
なぜなら、ドイツや独仏協定が主導するヨーロッパ統合への反発、警戒心は根強く残っているからです。
しかし、主要大国の1つが離脱すれば、他の大国の地位が相対的に上がることは否定できません。
ちなみに、イギリスのEU離脱に伴うEU内のパワーバランスの変化に関しては、さまざまな計算方法がありますが、“EU理事会”が行った試算では、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポーランドなどの影響力が増大するという結果になっています。
また、プレグジット後のEUにおいて、中小国がいかに利益を守れるかについては、とても重要な課題とされています。
特に、イギリスと近い立場にあった諸国にしてみれば、すでに懸念が増大していることになります。
まとめ
ここまで、イギリスのEU離脱に伴う日本、世界への影響を中心に解説してきました。
プレグジット自体が長期化したことで、“イギリスの離脱=問題の収束”のような印象を受けている方も多いかもしれませんが、実際はこれからもさまざまな問題が起こるでしょう。
また、その影響はイギリスやヨーロッパ諸国だけにとどまらず、日本を含む世界各国で見られる可能性が高いです。