前回の記事では、インボイス制度における簡易課税制度の活用法や、益税との性質の違いなどについて解説しました。
今回は、そもそも消費税がどのように導入されたもので、その中でどのようにしてインボイス制度の肝である益税が生まれたのかについて、詳しく見ていきたいと思います。
消費税とはどういった税金なのか?
インボイス制度において撤廃が掲げられている益税について知るには、まず消費税がどういった税金であるかを知る必要があります。
日本の代表的な税金としては、消費税の他にも所得税や法人税といったものが挙げられますが、これらの税金は、儲かれば儲かるほど税率が上がっていく累進課税を採用しています。
つまり、例えば年収1,000万円の方と年収1億円の方とでは、税率が変わるわけです。
多く稼いでいる方に、より重く課せられる税金であるため、言ってしまえば収入や売上が多い個人や法人の方が、割合としては損をするというわけです。
一方、消費税は、誰もが同じパーセンテージを支払います。
そのため、金額は同じであっても、裕福ではない方にとっては少し重い税金となります。
ただし、消費税は所得税や法人税とは違い、生活の一部として染み付いているため、それほど支払っているという感覚がないことも事実です。
また、所得税や法人税と消費税の大きな違いとしては、現役世代以外からも徴収できるという点が挙げられます。
所得税や法人税は、基本的に現在活動している法人や個人から徴収しますが、消費税はすでに仕事をしていなかったり、企業活動をしていなかったりする高齢者などからも取ることができます。
なぜ現役世代以外からも税金を取らなければいけなかったのか?
なぜ日本は消費税という形で、現役世代以外からも税金を取らなければいけなかったのかというと、その理由は至ってシンプルです。
それは、今後の日本において、高齢者の割合が増えることが予想されたからです。
1970年代、高度経済成長期がひと段落したとき、日本はある局面にぶつかります。
こちらが高齢化社会であり、今までのようにうまく日本の経済が回らなくなることや、高齢者が増えることによって税収が下がることが予想されました。
このような状況の中、「非現役世代からも取ることができる税金はないか」という考えのもと導入されたのが、消費税だったというわけです。
しかし、こちらの動きに対して黙っていなかったのが、当時の日本国民です。
国民全員における税負担が一律で上昇するわけですから、こちらの反対に関してはやむを得なかったと言えます。
その上、当時消費税は国民それぞれが請求書を提出し、その差額を見て国が課税するというものであったため、「貧しい人間から税金を取るつもりなのか」「手続きが面倒すぎる」という批判の声が殺到しました。
もちろん、消費税は貧しい層だけでなく、すべての国民が対象になる税金ですが、前述の通り経済的な余裕がなければないほど重い税金となるため、特に裕福ではない層を中心に、デモ行進など目に見える形で反対活動や批判が行われました。
国における消費税反対への対策
消費税導入当時、日本は将来的な少子高齢化、非現役世代の増加を危惧していました。
もちろん、それによって安定した税収が取れなくなってしまうと、国力はどんどん低下してしまうため、国として消費税はなんとしても導入しなければいけない状況だったのです。
しかし、前述の通り国民における批判の声は大きく、その問題を解決しなければ先には進めないと考えた日本は、ある救済措置を設けます。
それは、“売上が3,000万円以下の方に対しては益税とする”という仕組みでした。
日本の事業体全体の割合を見ても、売上が3,000万円以下の事業体の方が多いため、この仕組みを採用することで、国民における反対の声を鎮めることができると考えたのです。
また、国は当初、請求書の提出を求めていましたが、こちらは帳簿制という形に変更されました。
帳簿制にすることにより、ある程度内容のごまかしが効くため、不正に益税を得ようと考える事業体が現れることも想定されましたが、国としては、そのような事業体は「見つけ次第取り締まれば良い」と考えだったのです。
こうでもしなければ、国民における批判の声は鳴りやまず、消費税の導入も困難になってしまうため、言ってしまえばこちらは苦肉の策でした。
つまり、インボイス制度によって撤廃されようとしている益税は、そもそも消費税を導入するために、致し方なく導入しなければいけなかったものだということです。
このような対策が功を奏し、国は1989年、何とか消費税3%の導入に漕ぎつけます。
まとめ
ここまで、消費税導入の経緯と、インボイス制度のキーワードである益税の誕生について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
簡易課税制度が、中小企業に対するバックアップ制度であるのに対し、益税は消費税導入のために、いわば国が妥協をして採り入れた、できれば認めたくなかった仕組みだったのです。
次回は、消費税導入後における日本の段階的な動きを中心に解説したいと思います。