新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの企業を休業に追い込み、また多くの従業員の方の生活を困窮させる原因となりました。
そんな中、最近注目されているのが、そのような生活に困っている企業の従業員をサポートする“みなし失業”という制度です。
今回はこちらについて詳しく解説しましょう。
みなし失業の概要
コロナの影響で休業を余儀なくされ、収入がなくなってしまった方について、実際は失業していなくても失業しているとみなし、失業給付を受け取れるようにする特例措置を“みなし失業”といいます。
具体的には、所属する企業から休業手当が支給されなかった従業員の方に対し、休業前収入(平均賃金)の80%(月最大33万円)を、休業実績に応じて直接支払うというものです(雇用保険被保険者ではない方も対象)。
ちなみに、休業前収入(平均賃金)に関しては、過去3ヶ月において所属する企業から支払われた賃金の総額を、同じ3ヶ月の暦日数で割れば算出できます。
また、当制度において対象となる従業員の方は、給付を受けられるだけでなく、基本手当(失業手当)の給付日数も60日に延長されます(一部30日)。
当制度のメリット
当制度には、主に以下のようなメリットがあります。
①従業員が直接給付を受けられる
当制度と同じく、企業の従業員に対する休業手当の支払いをサポートする制度として、“雇用調整助成金”というものがあります。
これは、まず企業に助成金が支給され、企業から従業員に手当が支払われるという仕組みになっています。
一方、みなし失業における給付金は、従業員がハローワークで手続きをし、直接受け取れるものであるため、迅速な支給が期待できます。
現時点では、申請から1週間程度で受け取れる可能性が高いとされています。
明日の生活さえ不安だという従業員の方にとっては、とてもありがたいですね。
②従業員が生活を確保できる
当制度は、休業前収入(平均賃金)の80%の給付を受けられる制度です。
したがって、企業の従業員の方は、利用することである程度安定した生活を確保できます。
もちろん、これまでよりも多少生活水準は下がってしまうかもしれませんが、まったく生活できないということにはならないでしょう。
③従業員は企業を退職しなくて済む
コロナの影響で所属企業が休業したことを理由に、その企業を離れる決断をした方は少なくないでしょう。
ただ、当制度を利用すれば、ある程度収入を確保できるため、今すぐ退職する必要はありません。
また、これを言い換えると、企業は従業員の雇用を維持できるということになります。
④パート・アルバイトの方も給付を受けられる
当制度は、コロナによる休業中に休業手当を受け取れなかった従業員であれば、雇用保険被保険者ではない方、つまりパートやアルバイトの方でも給付が受け取れます。
⑤企業は整理解雇をしなくて済む
従業員への休業手当が払えない企業は、整理解雇(リストラ)も検討していることでしょう。
ただ、従業員に当制度の利用を勧めることで、企業は一時的に負担が少なくなるため、整理解雇を行わずとも、経営状況の立て直しに力を入れることができます。
申請方法について
当制度において従業員の方が給付金を受け取るには、以下の流れで申請する必要があります。
①所属企業から休業証明を受け取る
従業員の方は、まず所属する企業に“休業証明”という書類を発行してもらいます。
これは、“離職証明書”と同じような様式の書類で、従業員の方に給付される金額を算出するための必要なものです。
②ハローワークに申請する
従業員の方が、自らハローワークに給付の申請を行います。
③口座に給付金が振り込まれる
先ほども少し触れたように、申請から申込までの期間は1週間程度になると予想されています。
休業証明の発行に関しては、企業によっては少し遅くなる可能性もあるため、早めに発行してほしい旨を伝えておきましょう。
また、申請開始時期に関しては、7月中旬頃が予定されています。
当制度における問題点について
当制度は、直接従業員の方が給付金を受け取れる非常にありがたい制度です。
ただ、実はたくさんの問題も抱えているといわれています。
具体的には以下の通りです。
①手続きに時間がかかる可能性がある
現時点では、申請から1週間程度で給付金を受け取れると予想されていますが、ハッキリいってその予想はあまり信頼できません。
なぜなら、現在ハローワークは数多くの求職申請などによって、手続きに遅れが出ているからです。
また、ハローワークに訪れる方だけでなく、ハローワーク側の従業員が不足していることも、手続きの遅れに拍車をかけています。
当制度の申請は、ハローワークに対してオンラインでできるとされていますが、その体制もどこまで整うのかについては不透明です。
②休業証明を受け取れない可能性がある
当制度を申請する従業員の方は、企業から休業証明を発行してもらわなければいけません。
ただ、現時点でまだ企業が休業状態の場合、発行してもらうのはなかなか難しくなるでしょう。
また、資金はあるにも関わらず、不当に休業手当を支払っていない企業などは、従業員からの休業手当発行の打診を拒むかもしれません。
③すでに休業手当を受け取った従業員は損をする可能性がある
コロナ禍に苦しむ企業の中にも、なんとか休業手当を捻出し、絶やすことなく支払い続けている企業は存在します。
ただ、企業が支払う休業手当の支給額は、最低平均賃金の60%とされています。
つまり、これまでコロナの影響で休業した企業から失業手当を受け取った従業員の中には、みなし失業で受け取れる平均賃金の80%に満たない休業手当しか受け取れていない方もいるということですね。
こうなると、すでに休業手当を受け取った方は、これから当制度を利用して休業手当を受け取る方より損する可能性も出てきます。
真面目に頑張った企業、そして従業員が損をするというこの現状は、少し問題があるのではないかと思います。
当制度の注意点について
当制度を利用する従業員の方は、以下の2点に注意してください。
①被保険者期間について
当制度における詳細に関しては、まだ明らかになっていない部分が多いですが、利用の際に注目したいのが、“被保険者期間がリセットされるかどうか”です。
東日本大震災発生時のみなし失業による給付では、給付を受けた時点でそれまでの被保険者期間がリセットされる仕組みになっていました。
また、通常失業手当を受給するには、最低でも6ヶ月以上被保険者となっていなければいけません。
つまり、当制度を利用することで、東日本大震災の際と同じように、被保険者期間がリセットされる場合、今後本当に失業した際に失業手当がもらえないことも考えられるということですね。
②他の助成金・給付金制度との併用について
当制度は、休業手当を受け取れていない従業員の方にとって、喉から手が出るほど利用したい制度だと思いますが、当制度ばかりに固執する必要はありません。
他にも利用条件をクリアしている助成金・給付金制度があれば、そちらの利用も積極的に検討しましょう。
まとめ
ここまで、最近注目を集めている“みなし失業”について解説してきました。
現時点では、メディアでそれほど大きく取り上げられていない当制度ですが、利用すべき方は多いと思うので、今後の動向により注目しておきましょう。
また、従業員の方だけでなく、休業手当の支払いに苦しむ企業も、当制度の詳細については理解しておく必要があります。