防衛費の財源確保については、これまで何度も議論を重ねられてきた日本の大きな問題です。
特に、増税による財源確保は国民にとって注目せざるを得ない問題であり、他の財源確保の方法についても関心が高まっています。
今回は、防衛費の概要や政府の方針などを踏まえながら、財源を国債で賄うべき理由について解説します。
防衛費とは?
防衛装備品の取得費、自衛隊の人件費など、防衛省が所管する予算のことを防衛費といいます。
国の防衛力を整備し、維持するための費用であり、軍事費や防衛関係費と呼ばれることもあります。
2022年12月、岸田首相は2023~2027年度の防衛費について、総額約43兆円とする方針を固めました。
現在の中期防衛力整備計画(2019~2023年度)の27兆4,700億円程度から大幅増となり、こちらの金額は過去最高です。
防衛費増額の背景
日本の防衛費は、2012年12月に第二次安倍政権が発足してから、増額を続けています。
また、ロシアによるウクライナ侵攻、中国の膨張主義による東アジアの安全保障環境の変容など、防衛費の増額にはさまざまな背景がありますが、日本においては、憲法9条の改正に関する議論、学術分野における軍事研究の在り方など、防衛や安全保障に関する議論に慎重な見方も強いです。
政府が考える防衛費の財源
先ほど、政府は2023~2027年度の防衛費を大幅に増額することを発表したと言いましたが、それだけの予算を確保するには、当然追加の財源が必要になります。
これまで政府が具体策として挙げていたのは、他の予算を削る歳出削減、予算が年度内に使われなかったときに生じる決算剰余金、国有資産の売却などによる税金以外の収入でしたが、これらの策による十分な財源確保は難しいと判断された結果、最終的には増税による財源確保が打ち出されています。
具体的には、所得税、法人税、たばこ税の増税で防衛力の強化に必要な財源を確保する方針であり、開始時期は2024年以降の適切な時期としています。
このうち、物価の高騰が家計を直撃する中で、国民の多くが気になる所得税については、岸田首相が「個人の負担が増加するような措置は行わない」としていましたが、実際には当面の負担は増えないものの、将来的な負担が増す形となりました。
所得税増税による防衛費確保の問題点
政府は防衛費を確保するために、所得税の納税額の1%分にあたる新たな付加税を課すとしています。
期間は“当分の間”とされていますが、こちらは事実上無期限に続くことになります。
また、所得税にはすでに、東日本大震災の復興費用などに充てる復興特別所得税が、2037年までという期限付きで2.1%分上乗せされていますが、こちらは家計を取り巻く状況に配慮し、税率を1%下げるとしています。
これにより、所得税にかかる当面の納税額は、これまでの2.1%と同じになります。
しかし、問題は復興特別所得税の税率を下げることにより、復興のための財源が減少してしまうことです。
そのため、2037年以降も、復興特別所得税による1.1%分の上乗せを、最長で13年にわたって続けることになりました。
つまり、長いスパンで見ると、復興特別所得税の上乗せ期間が伸びたことにより、所得税増税による国民の負担は、実質増加してしまうということです。
防衛費の財源を国債で賄うべき理由
前述の通り、防衛費の財源確保を増税で行ってしまうと、最終的には国民の負担が増えることにつながります。
それであれば、国債で賄う方がよっぽど効率的だと言えます。
日本には、“国債60年償還ルール”というものがあります。
こちらは、その名の通り国債を60年かけて償還するというルールですが、60年という目安は、その昔公共建築の耐用年数に基づいていたものであり、現在は景気対策などでも国債は発行するため、まったく意味をなしていません。
また、国債60年償還ルールでは、償還するための予算を毎年、歳出の中に16兆円も含んでいます。
つまり、現代では意味をなさないこちらのルールを撤廃し、生み出された16兆円をそのまま防衛費に充てる方が、国民の負担も少なく、よっぽどスムーズだということです。
ちなみに、「国債で財源を賄うことは、将来世代に負担を強いることになる」という意見もありますが、こちらは必ずしもそうとは限りません。
確かに、家計が借金をするケースで考えると、負担が将来に移転することは目に見えています。
しかし、国債においてもこのようなことが起こるのかというと、内国債については事情がまったく異なります。
内国債の発行、償還、利払いに伴う資金移動は国内で起こるため、国全体として使える資源の総量に変化は生じません。
もちろん、すべて内国債で賄うのは難しいかもしれませんが、財源の一部に充てる程度であれば、検討してもおかしくはないと言えます。
まとめ
ここまで、防衛費の現状や、国債で財源確保を行うべき理由などについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
相次ぐ物価の高騰から、国民は増税を含む負担の増加に敏感になっています。
そのため、政府はすでに方針を打ち出しているものの、今後の国会では、財源と負担の問題を含め、丁寧な議論が行われることを期待したいところです。