巫女と聞くと、神聖なイメージを思い浮かべるでしょう。
しかしながら戦国時代に存在した巫女である千代は、一味違います。
特に武田信玄と密接な関係があり、武田軍の勝利に貢献していたのでないかとも言われているのです。
ここでは、千代の生涯とエピソードをご紹介します。
千代の生涯
千代の生涯について、実は史料が少なすぎるため詳細な内容が分かっていません。
一説によると、平安時代から続いている名門武家の甲賀望月氏の娘でないかと考えられています。
武田信玄と関わりを持ったきっかけは、彼の甥である望月盛時に輿入れしたことです。
望月盛時に輿入れした背景には、生家の甲賀望月氏が関係しています。
甲賀望月氏と望月盛時が惣領をしていた信濃国望月家は古くから関わりがあったため、その縁で嫁いだのです。
ここまでは戦国時代の女性によくある流れなのですが、千代の幸せな夫婦生活は長く続きません。
望月盛時が、第4次川中島の戦いで討死してしまうのです。
夫との急な別れを体験し、千代は早くも未亡人となってしまいます。
そんな千代に対し、第4次川中島の戦いを終えた武田信玄は「甲斐信濃二国巫女頭領」に任命し、歩き巫女の育成という役目を命じたのです。
ここで、歩き巫女がどのような存在なのかをお話ししましょう。
歩き巫女とは、現代で広く知られている神社に属している巫女と違い、特定の神社に属さず、広く諸国を巡り歩く巫女のことを言います。
諸国を巡りながら祈祷や占い、巫女舞などで生計を立てていましたが、戦国時代では珍しくなく一般的な存在でした。
武田信玄は、歩き巫女のある特徴に目を付けました。
まず、歩き巫女は各地の関所を自由に通行できるという特徴があることで、様々な地域での情報収集が可能だというところです。
さらに、祈祷や占いなどを通し、その土地に住んでいる民衆から警戒されずに話を聞くことができました。
これらは、歩き巫女ならではの特徴と言えます。
つまり、歩き巫女は人々から怪しまれず情報を得られる存在になりますから、上手く利用できると戦や政治を有利にできるのです。
千代もその役目を果たし、育成した歩き巫女たちから報告をもらい、武田信玄に有利、必要な情報があれば報告していたそうです。
時に、戦の勝敗は情報で左右されることがあります。
武田信玄や武田軍の支えとなったのは、千代を始めとする歩き巫女たちの活躍があったからだと考えることもできるでしょう。
千代のエピソード
ところで千代は巫女でなく、別の形で関わっていたのでないかと考える説もあります。
その根拠は、武田信玄のように身分の高い者が巫女と関わりがあったと考えにくいというところにあります。
当時の巫女は身分が低かったため、いくら情報収集のためとはいえ、武田信玄の近くにいたと考えにくいのでしょう。
そこで考えられたのが、「くノ一説」です。
くノ一説の根拠は、歩き巫女を通じて諜報活動を行っていたこと、千代の生家である「甲賀望月家」が甲賀流忍術の中心となった家系であるところにあります。
確かに、甲賀望月家は甲賀流忍術の中心となった「甲賀五十三家」に数えられていますから、千代もその流れを汲んで忍者であったと考えるのは合理的です。
多くの人が把握している歴史には、くノ一の名が登場しません。
仮にくノ一として活躍した人物がいるとするならば、千代が該当するのです。
忍者やくノ一の存在は知られていますが、ここまで詳細な人物像があると、当時の具体的な活動もよりイメージしやすくなるでしょう。
とはいえ、くノ一説には確実と言える根拠がありません。
そもそも千代本人に関する詳細な情報もあまり残っていないため、断言することができないのです。
確実に言えるのは、歩き巫女の育成をしたということくらいです。
ここから推測できることは、ほんのわずかです。
しかしながら、千代が諜報活動をしていたという可能性は否定できません。
肩書は違っていても、武田信玄から与えられた役割を全うしたことに変わりないでしょう。
千代にこのような話が出るのは、武田信玄が忍者組織を利用していたところにあります。
武田信玄に限らず、他の武将も重要視していた組織ですから、忍者なのでないかと推測されてもおかしくありません。
そして、忍者組織をより強固なものとするために、歩き巫女から得られる細かい情報を必要としたと考えるとどうでしょう。
武田軍が有利になるのは、自明の理です。
現代でも情報があるに越したことがありませんから、戦国の世なら尚更です。
今回は千代についてご紹介しましたが、戦国の世では諜報活動の役目を担っていた女性が多くいたことでしょう。
今後、歴史上で歩き巫女が登場した時は、単なる巫女の活動だけでなく、様々な視点から彼女たちの役割を見てみてはいかがでしょう。
まとめ
ここでは、千代の生涯とエピソードについてご紹介しました。
史料が少ないため詳細な人物像は不明ですが、武田信玄から命じられ歩き巫女の育成を行っていたことは確かです。
くノ一かどうかに関わらず、武田信玄に対し歩き巫女たちが集めた情報を伝え、情報戦を優位にしました。
千代の活躍は目立つものではありませんが、武田軍の勝利に貢献していたことに間違いないでしょう。
